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不二家関連の2番組に関する見解
2007(平成19)年8月6日
放送倫理検証委員会決定 第1号
TBS『みのもんたの朝ズバッ!』
不二家関連の2番組に関する見解
放送倫理検証委員会
委 員 長 川端 和治
委員長代行 村木 良彦
委員長代行 小町谷育子
委 員 石井彦壽
委 員 市川森一
委 員 上滝徹也
委 員 里中満智子
委 員 立花 隆
委 員 服部孝章
委 員 吉岡 忍
放送倫理・番組向上機構〔BPO〕
Ⅰ はじめに
1.放送倫理検証委員会の役割
放 送倫理検証委員会は、放送倫理・番組向上機構(BPO= Broadcasting Ethics & Program Improvement Organization)が掲げる「正確な放送と放送倫理の高揚に寄与すること」という目的を効果的に達成するために、あらたに設立された。
近年、放送界の不祥事が相次ぎ、放送への信頼が揺らいでいる。そうしたなか、言論と表現の自由を確保しながら、いかに放送倫理を自覚し、番組の質を高め、 視聴者の信頼を勝ち得ていくかは、現在の放送界だけでなく、この国の民主主義および社会と文化の未来をも左右する重要な課題と言わなければならない。
一方、日本の放送界は、放送法と電波法によって直接に行政の監理下に置かれ、折々に行政指導を受ける、という特殊な環境にある。欧米民主主義国などではど こも、政府から相当程度独立した規制機関が設置されているが、日本の場合、ロシア、中国、北朝鮮などと同様、公権力を監視すべき放送メディアが、公権力に よってじかに監理監督される、という状態がつづいている。こうしたいびつな状態を是正していくためにも、放送界がみずからを律し、多様・多彩な放送活動を 通じて、視聴者から信頼され、支持されることがますます大切になる。
委員会は、こうした時代的・社会的要請に応えるために、第三者の中立的立場から、放送番組や放送倫理のあり方について検証し、放送局とその関係者に提言するなどの活動を行なう機関として設立されたものである。
BPOは委員会の「運営規則」を策定し、各放送事業者とのあいだで「調査への応諾」や「勧告の遵守と周知」、さらには「再発防止計画の提出」等を定めた 「放送倫理検証委員会に関する合意書」を取り交わした。これらの準備過程を経て、委員会は2007年5月23日に第1回の委員会を開催するに至った。
もとより「倫理」は、外部から押しつけられるものではなく、内発的に生まれ、自律的に実践されることによって鍛えられるものである。放送倫理も例外ではな い。放送倫理は、放送に携わるすべての人々が日々の仕事のなかで自覚し、内部統制の制度や番組制作のガイドラインとして現実化され、具体的な場で活かすこ とを通じて、番組の質として現われてくる。放送界が放送倫理と番組の質的向上のたゆまぬ努力をかさね、多様・多彩な放送活動をより自由に行なうよう促すこ と――委員会がめざすのは、この一点である。
今般、こうした理念と運営規則と合意書に基づいて委員会が検討したのは、(株)東京放送(以下、TBSと呼ぶ)の番組『みのもんたの朝ズバッ!』(以下、 『朝ズバッ!』と略称することもある)が行なった(株)不二家に関する放送である。委員会はこの放送に、放送倫理上の問題があったのではないか、と判断 し、種々の資料を検討するとともに、関係者のヒアリング(事情聴取)を行ない、その結果を明らかにすることにした。
これは委員会が行なった最初の活動であるが、その内容に入る前に、委員会が行なう活動の種類、それぞれの中身、判断の意味等について、委員会の運営規則に沿ってあらかじめ明らかにし、この報告書を理解するための一助としておきたい。
2.「審議」と「審理」の区別
委員会の活動は、運営規則第2章に「放送倫理および番組の向上に関する審議」とあり、第3章に「虚偽の放送に関する審理」とあるように、2つに大別される。両者のちがいが、各章標題の「審議」と「審理」という言葉の相違に表わされていることに留意していただきたい。
第2章第4条に定められた「放送倫理および番組の向上に関する審議」には、こう述べられている。
第4条「委員会は、放送倫理を高め、放送番組の質を向上させるため、放送番組の取材・制作のあり方や番組内容などに関する問題について審議する」
これはわかりやすく言うと、例えば「バラエティー番組と視聴者意見」「政治報道のあり方」「制作委託契約の現状」等々と、放送界全体に共通するテーマを設定 し、その現実や問題点を検討することである。場合によっては、放送局とその関係者に、あるいは広く一般に委員会の意見を公表することもある。
こうした検討をするための素材として、委員会は、放送局に放送済みの番組テープや関連資料の提出を求めたり、参考人を招いて意見交換などをすることも あるが、あくまでそれは上記のような各テーマについて放送倫理の観点から「審議」し、そこで出された論点や意見を参考に、放送界全体が放送倫理と番組の質 的向上に取り組んでいただくための啓発的な活動である、と言ってよい。
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これに対し、「審理」は、第3章の標題に「虚偽の放送に関する審理」とあるように、委員会が「虚偽」の疑いがあると判断した特定の番組について、その制作過程にまでさかのぼって検証する活動である。
運営規則第3章第5条は、こう述べている。
第5条「委員会は、虚偽の疑いがある番組が放送されたことにより、視聴者に著しい誤解を与えた疑いがあると判断した場合、その番組(以下「対象番組」という)について放送倫理上問題があったか否かの審理を行うことを決定する(以下、略)」
何 が虚偽であり、何が虚偽でないか、を判断するのは、じつは簡単なことではない。虚偽にも、存在しなかった事実をあたかも存在したかのように作り出す「捏 造」や「やらせ」に類する虚偽もあれば、番組制作者の誤解や過失によって、結果的に虚偽になってしまうものもあるだろう。あるいは、虚偽と過剰演出と一般 的演出との区別も、なかなか一筋縄ではいかない。
だからこそ、機械的に判断するのではなく、十分な審理が必要になる。たんに虚偽か否かを決めるだけでなく、その虚偽が「視聴者に著しい誤解を与えた」かど うかについても検討し、総合的・理知的に審理しなければならない。放送が、深く社会や文化に関わる事業活動であることを考えれば、これは当然のことであ る。
今般、委員会はこの規則に基づいて、TBS『朝ズバッ!』が「視聴者に著しい誤解を与え」るような「虚偽の疑いのある番組」を放送したのではないか、と考え、その制作から放送までの過程に、どのような放送倫理上の問題があったのかを「審理」することにしたのである。
第6条は、委員会が「審理」をするに当たって、「対象番組を制作・放送した放送事業者および関係者に対し、調査・報告および放送済みテープ等関連資料の提 出を求めることができる」こと、また「事情聴取(ヒアリング)を行うことができる」こと、等を定めている。今回、委員会はこの第6条に基づき、TBSに関 連資料の提出を求めるとともに、関係者からのヒアリングを行なった。
3.「見解」と「勧告」のちがい
委員会がこうして行なった審理の結果については、「見解」または「勧告」として当該放送事業者に通知され、また一般にも公表される。そのことを定めたのが、運営規則の第8条と第9条である。
第8条「委員会は、対象番組の放送内容に放送倫理上問題があったか否かについて審理し、放送倫理上の問題点を『勧告』または『見解』としてとりまとめ、当該放送事業者およびその放送番組審議会に書面により通知し、公表する(以下、略)」
第9条「委員会は、『勧告』または『見解』の中で、当該放送事業者に対し、再発防止計画の提出を求めることができる(以下、略)」
条 文からだけではわかりにくいが、一般的な字義上も、「見解」が「ものごとの見方や考え方」であるのに対し、「勧告」は「あることをするよう説き勧める」の 意味であり、「勧告」のほうがより強い働きかけの意味を持っている。「勧告」も当然ながら、委員会の「見解」に基づいて行なわれるものだが、たんにある見 方や考え方を示すにとどまらず、さらにいっそうの根本的な対策を求めるものである。
いずれにせよ、委員会は機械的に対応するのではなく、事例の態様や影響の大きさ等を注意深く見極め、当該放送局だけでなく、放送界全体の放送倫理と番組の質の向上に役立てられるよう、真剣に「審理」に臨みたいと考えている。
Ⅱ 審理の対象とした番組
委員会が審理の対象としたのは、TBSが放送した次の2番組である。
①『みのもんたの朝ズバッ!』2007年1月22日(月)放送分中の不二家関連部分
不 二家の元従業員の内部告発に基づき、同社平塚工場における賞味期限切れチョコレートの再利用疑惑を報じた内容であるが(午前7時08分から4分28秒 間)、不二家からの指摘・抗議を受けるなどして、のちに同番組は以下の番組②において、不正確・不適切な表現等があったことを認め、訂正とお詫びを行なった。
委員会は、このような事態が生じた番組に「視聴者に著しい誤解を与え」るような「虚偽」があったか否かを検討するとともに、取材調査に困難をともなう内部告発の扱い方について、放送倫理の観点から検証する必要があると判断した。
②同4月18日(水)放送分中の不二家関連部分
上記番組①で放送した内容の一部について訂正し、謝罪した内容であるが(午前6時38分から6分03秒間)、番組全体が不二家の広告と化したような不自然さが否めない。委員会は、番組中で訂正や謝罪を行なう場合の放送倫理上の問題を検証する必要があると判断した。
この2番組は、上述のとおり番組①の内容を番組②で訂正・お詫びするというものであり、委員会は、それぞれの問題点を指摘すると同時に、両者を密接に関連 し合った一対のものとして総合的に検証することにした。同番組はこの時期に不二家関連のニュースを断続的に取り上げており、審理に当たっては、適宜それら も参照した。
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【特記】内部告発通報者に対する配慮
委 員会が検証した上記番組には、のちに詳述するように、不二家平塚工場の元従業員の内部告発が関わっている。マスメディアにとって、取材源の秘匿が譲ること のできない原則であることは言うまでもないが、他方で、委員会の審理にとっては、内部告発そのものがほんとうに存在したかどうか、その内容が番組に正確に 反映されていたかどうかを確認することが欠かせない。
委員会はまず、TBSから提出された撮影取材の際のテープ内容を、言葉どおりに書き起こした文字資料を検討した。ここでは、通報者の身元の特定につながる部分は空白にされ、その間の秒数が記されていた。
次に委員会は、TBSに、その未編集の撮影取材テープに記録されている通報者の顔や音声、収録場所の映像に、身元を特定できないような加工をすること、しかし、映像の内容とその順番、撮影時間はそのままにしておくことを求め、その上でテープを視聴した。
その結果、内部告発の通報者がたしかに存在したこと、また先に提出された文字資料が正確であることを確認した。
また委員会は、TBS報道局委嘱の弁護士が通報者に面談し、発言内容の再確認を行なって作成した内部「報告書」の提出を求め、その内容の確認と、上記の文 字資料や撮影取材テープとのつき合わせを行なった。同社コンプライアンス室の説明によれば、報道局委嘱の弁護士に依頼したのは、報道局が、『朝ズバッ!』 を制作している制作局とは別組織であることから、一定の客観性を確保できると判断したためだという。
マスメディアを通じた内部告発が、現代社会のさまざまな不正を明るみに出し、正すための有効な手段のひとつになっていることは疑い得ない。しかし、それが 有効に働くためには、マスメディアが通報者の身元を確実に秘匿することが不可欠である。たとえBPO放送倫理検証委員会であろうと、身元が明かされると なったら、今後、内部告発を行なおうとする人々に対し、萎縮効果を与えることにもなりかねない。
委員会はこの点を深く考慮し、今回の通報者の身元特定を避けながら、内部告発そのものの有無と内容を確認することにした。
Ⅲ 放送に至る経緯と番組内容
1.不二家問題の発生
2007 年1月9日(火)、食品製造販売を業とする不二家の埼玉工場において、消費期限切れ原材料を使用した製品が製造・販売されていたことが発覚し、以後数週間 にわたって大きく報道される事態となった。これを機に同社工場が各地保健所の立ち入り検査を受けるとともに、厚労省や農水省からも説明を求められた。
番組①は問題発覚から約2週間後、不二家に関する一連の出来事が社会問題化し、消費者や視聴者の大きな関心を集めていたさなかに放送された。
2.1月22日(月)放送分(①)の取材から放送に至る経緯
『み のもんたの朝ズバッ!』はTBSテレビ制作局が制作し、月曜から金曜までの朝5時30分から8時30分まで放送されている情報番組である。番組の責任体制 は、制作プロデューサーが全体を統轄し、その下に番組プロデューサーがおり、さらに曜日ごとに決められた曜日プロデューサーが担当曜日の制作現場を采配し ている。1月22日の放送日に当たる月曜日の班は、Xプロデューサーが統括しており、この月曜班には約20名のディレクター等のスタッフがいるが、その大 半は制作会社に所属している。
1月19日(金)午後3時頃、かつて不二家平塚工場で働いていたという女性(以下、A通報者と呼ぶ)からTBSに電話があり、『朝ズバッ!』月曜班のYディレクター(制作会社所属)が応対した。
A通報者は「10年ほど前から数年間、平塚工場で働いていた」と言い、同工場では「賞味期限切れのチョコレートを溶かし、製造し直していた」等と語り、翌20日午前中の撮影取材に応じることを承諾した。
Xプロデューサーら番組制作幹部はYディレクターから報告を受け、A通報者の取材をするよう指示した。
1月20日(土)午前、Yディレクターはカメラマン、ビデオエンジニア、ロケ車ドライバーを伴ってA通報者と落ち合い、車中や公園で約1時間半、面談し た。A通報者の撮影取材は公園内において、約14分間にわたって行なわれ、A通報者は「賞味期限切れチョコレートを溶かし、再利用していた」ことや、「売 れ残ってもどってきた(クッキーの)カントリーマアムを包装し直して、再出荷していた」等を語った。その前後、Yディレクターらは発言内容の再確認、A通 報者が持参した勤務当時の写真2葉の撮影を行ない、またA通報者も記憶に基づいて工場の配置図を手書きするなどした。
このときYディレクターはA通報者に「(同様の事実を知っている)別の人を紹介してほしい」と依頼し、同番組スタッフルームの電話番号や自分の携帯電話の番号を伝えた。
なお、TBSないし同番組からA通報者への「取材謝礼」「出演料」「情報提供料」等金銭の支払いは、この取材の際もそれ以後も行なわれていない。
A通報者と別れたあと、Yディレクターらは不二家平塚工場に向かい、その外観等を撮影するとともに、A通報者が描いた工場配置図がおおむね正確であることを確認し、帰社した。
同日夕刻、Yディレクターは不二家広報に電話し、A通報者の発言概要を伝え、事実確認を求めた。その後、不二家広報からYディレクターに電話があり、「工 場内で発生した成形不良品を溶かして作り直していることはあるが、返品を使うことはない」「平塚工場ではカントリーマアムを作っていない」等、A通報者の 発言内容を否定する内容の回答があった。
Xプロデューサーら同番組制作幹部は、A通報者の発言と不二家の回答を検討し、A通報者の発言を補強する別の材料が必要と判断し、この段階では放送を保留することに決めると同時に、Yディレクターにさらに取材を進めるよう指示した。
同日夜、Yディレクターの携帯電話に、A通報者からその電話番号を聞いたという男性(B通報者と呼ぶ)が電話をかけてきた。B通報者は平塚工場において 「パート(タイム雇用の)従業員のまとめ役のような仕事をしていた」と言い、A通報者の同工場勤務当時のニックネームを知っているなど、同工場の内情をよ く知っている様子だった。B通報者は「賞味期限切れチョコレートを溶かし、バケツ状のものに入れて、再利用していたことは自分も知っている」「カントリー マアムの件はわからない」等、A通報者の発言の主要部分を裏づけることを語ったが、電話音声の録音や撮影取材については承諾しなかった。この電話でのやり とりの後、Yディレクターは再度不二家に電話し、もう1人別の内部者がA通報者と同様の発言をしていることを伝え、確認を要請した。
1月21日(日)昼頃、Yディレクターは不二家広報に電話し、前夜の要請についての回答を求めたが、「まだ調査中であり、確認が取れていない」「放送する のであれば、『調査中』と言わずに、『確認が取れていない』と言ってほしい」旨の返答を得た(なお、任意に提出された「不二家信頼回復対策会議(郷原信郎 議長)」の資料によれば、上記2件の電話に関する記録は存在しない、とされる。番組制作者によるB通報者の発言の取り扱い、およびこの前後の不二家広報と のやりとりに関する記録の不備については、後述する)。
以上の報告を受けたXプロデューサーら番組制作幹部は、
- (1)A通報者の発言に体験者にしか語れないリアリティーがあり、その内容も一貫していて、ブレがない。
- (2)B通報者が同様にチョコレート再使用について明言し、他方で、知らないことは知らないと言うなど不自然さがない。
- (3)不二家側も成形不良品を作り直す工程があることを認めていることから、返品を溶かし、再利用することも可能だったはずである。
- (4)また不二家は放送する場合には、「確認が取れていない」というコメントにしてほしい、と放送されることを認識して応対している。
等々を検討し、翌22日月曜日放送の『朝ズバッ!』の1コーナーとして放送することを決定した。
その後、上司の指示を受けたYディレクターは、A通報者の発言のVTR編集を行なう一方、番組が契約しているイラストレーターに連絡し、上司のチーフディ レクターとともに発言の概略を説明し、チョコレート再利用工程の略図を示した上で、番組中に司会者みのもんたが使うフリップの作成を依頼した。
3.1月22日(月)放送分(①)の番組内容
「新証言…不二家の“チョコ再利用”疑惑」と題した約4分半の放送は、前後段の2パートで構成されている。前段では、不二家平塚工場で働いていたというA通報者が、顔を映さない、また音声を加工したVTR素材によって登場し、
(1)賞味期限切れチョコレートをパッケージし直し、再利用していた。
(2)賞味期限切れで返品されてきたチョコレートを溶かし、製造し直して、新品として出荷していた。
等々の内部告発を行なった。この発言に対する不二家側の反応として、「確認が取れていない」とのコメントも紹介されている。
後段は、みのもんた司会者がこの(2)の発言内容をイラスト化した3枚のフリップ(表紙を含めると4枚)を示しながら、「賞味期限切れチョコを開封」「そ のチョコに牛乳などを加えて混ぜる」「新製品として再出荷」などと解説し、「これはもう、何をかいわんや」「経営自体がちょっとおかしいんじゃないかと思 います」等々と強い口調で語りながら、スタジオにいる3名のコメンテーターに発言を求め、コメンテーターらも「作る人間がこういうふうに腐って変わってく ると、まあひどいことになるんだなと思いますよ」などと、それぞれに不二家に対する不信を語り、このコーナーが終わる。
4.不二家からの指摘と抗議
同日夜、不二家広報は番組に対し、「事実と異なった内容」である旨、以下のような指摘・抗議を行なうとともに、善処方を要請した。
- (1)賞味期限の切れたチョコレートは平塚工場にもどってくることはなく、工場とは別の場所にある物流倉庫にもどし、廃棄処分をしている。よって、再処理して商品化することはない。
- (2)チョコレート包装紙には賞味期限の印字はあるが、(A通報者の言うような)製造日の印字はしていない。
- (3)賞味期限切れチョコレートが工場に返品されることはない(ので、開封して再利用することはない)。
- (4)チョコレート製造には(司会者がフリップで示したような)牛乳を加える工程はない。
翌23日、同番組宛てに、不二家広報がこれら指摘と要請をあらためて文書化したファックスが届いた。
なお、番組①が放送されたのと同じ日、不二家は経営陣の交代を発表した。同社はその後、同社が設置した第三者委員会等による現状調査・業務改善策の提起を 受け、再生への取り組みを本格的に始めるに至った。この間の一時期、1月末日以降およそ5週間にわたって、同社広報からの連絡は途絶した。
5.4月18日(水)放送分(②)の放送に至る経緯
不 二家広報から上述の指摘・抗議を受け、善処方を要請されたTBS同番組制作幹部と月曜班スタッフは、番組①の放送内容の正確性を再確認するため、以後、番 組②の放送までの約3カ月間に、以下のような作業を行なった。なお、この作業には途中から同社コンプライアンス室、報道局が委嘱している顧問弁護士らも加 わっている。
- (1)A 通報者に数回にわたって面談し、発言内容にブレのないことを確認した。A通報者の内部告発動機が「ただ知っていることを伝えたかった」ことにあり、不二家 および同社平塚工場に対する怨恨感情などはなく、また発言提供に対する対価要求がないこともたしかめた。面談の際、A通報者が不二家平塚工場で働いていた ことを示す製品包装材料、メモ書きに使用した作業工程用紙、耳栓などの物証を確認し、撮影した。
- (2)平塚工場近辺の住宅街を調査し、同工場の現在および過去の社員やパートタイム雇用の従業員を探し出し、A通報者の発言内容をクロスチェックするための準備を行なった。
- (3)不二家広報に対しては、「製品包装記載のロット番号について」「賞味期限切れ商品の回収方法について」等々、「チョコレートの製造工程と混入する原材料について」チョコレート製造と賞味期限切れチョコレートの取り扱いに関する問い合わせを口頭と文書で行なった。
両 者の交渉は3月中旬に再開され、不二家側からは「小売店から返却された商品を使っていた事実はない」「平塚工場ではカントリーマアムを製造していない」旨 の従来通りの返答のほか、「ロット番号と賞味期限表示は無関係」「(チョコレートの)製法については、今回の件と直接的な関係がないと思われる為、お答え できません」等の回答が寄せられたが、両者間の話し合いは相互不信のため暗礁に乗り上げ、実質的には進まなかった。
なお、B通報者については、1月22日の番組①の放送翌日に携帯電話による連絡が取れたものの、その後は留守番電話状態がつづき、数日後には不使用状態になってしまい、以後現在まで連絡が取れない状態がつづいている。
3月下旬、TBSおよび同番組関係者と不二家との折衝が膠着するなか、週刊誌、新聞等が『朝ズバッ!』の不二家報道に捏造の疑いがある旨、いっせいに報じ た。これに関してTBSは4月13日、総務省に対して、番組①の放送に至った経緯などの説明を行なうとともに、同番組の「誤解を招きかねなかった表現」部 分等について、訂正・お詫びの放送をするための準備に取りかかった。
6.4月18日(水)放送分(②)の番組内容
「ミルキーがもどってきた!不二家再生へ本格スタート」と題した約6分間のコーナーは、大別して4つのパートから構成されていた。
- (1)司会者みのもんたが「私も(不二家の)ペコちゃんポコちゃんには愛着があって、そういう気持ちの表われとして、大変厳しいことも言ったが、販売再開はうれしい」などと語る導入部分。
- (2)不二家の新社長がコンビニ店で同社製品を購入し、販売再開を喜ぶコメントを語ったり、一般消費者の同趣旨の発言を紹介する部分。
- (3)スタジオのコメンテーターが、「モザイクや顔を出さない匿名証言」に頼ることの危険性など、テレビジャーナリズムのあり方を語り、それを引き取った司会者が「スタジオのお菓子は全部不二家にしますから」とつづける部分。
- (4) 局アナウンサーと事前制作VTRによる1月22日(月)放送分の番組①についての「訂正」「お詫び」部分。スタジオのアナウンサーが「ここでお断わりで す」と言い、VTRに切り替わって、「誤解を招きかねない表現」があったとして、次の3点に関して文字表示とナレーションによる訂正とお詫びを行なった。
- (ⅰ)「『出荷されたチョコレートが工場にもどる』は証言者の伝聞」であり、事実であるという確証を得たものではなかった。
- (ⅱ)「証言者の不二家勤務は10年以上前」のことだったが、「最近のことと誤解されかねない」表現だった。
- (ⅲ)「『チョコレートと牛乳を混ぜ合わせた』という表現」で、「牛乳と断定した点は正確性を欠いていた」。
こ ののち、画面は水面状の模様に変わり、「TBSは、法律家が証言者に面談するなどして調査した結果、やらせや捏造に類する疑いはないとの報告を受けてい る」旨のナレーションがつづく。さらに画面が変わって再びアナウンサーが登場し、「1月の一連の不二家報道で、行き過ぎた表現やコメントがあったことも併 せてお詫びします」と語り、このコーナーが終わる。
7.不二家の経営判断と紛争の収束
こ の放送があった同日、不二家は今後の同社の「信頼回復」「経営革新」「安全衛生」に向けた取り組みを明らかにした「不二家の再生に向けて」という文書を発 表した。このなかで同社は、同社が設置した「不二家信頼回復対策会議」が3月末に『朝ズバッ!』の一連の報道に対して「損害賠償も含めて」「厳正に対応す べき」と提言した件につき、「本日朝の放送で対応頂き」「その内容は、弊社の要求に応える謝罪である、との経営判断に基づき、これを受け入れることと致し ました」と表明した。
これによって、およそ3カ月間に及んだ両者間の紛争は一応収束した。
Ⅳ 1月22日(月)放送の番組①の問題点
本 件番組は、不二家問題が多大な社会的関心を集めているさなかに、かつて同社工場で働いたことのあるA通報者の内部告発発言を取材し、放送するものであっ た。その基本的テーマは食の安全・安心に関するものであり、消費者および視聴者にとって大きな関心事である以上、知り得た事実を報じることは、その速報 性・広域性・影響力の大きさ等において他のメディアにまさるテレビの重要な責務でもある。
しかし、速報性が求められるといっても、事実の究明をないがしろにしてよいわけではない。とりわけ内部告発発言は、多くの場合、通報者が匿名であり、その 身元や立場を保護しながら取材や調査を進め、その告発内容が真実であると信じるに足る合理的根拠を収集することが必要になる。
これらの観点から本件番組の取材から1月22日放送までの経緯を検討すると、以下のような問題点があった。
1.取材調査上の問題点
- (1)短時間の撮影取材
- どのような番組であれ、丹念な取材や調査が必要なことは言うまでもないが、とくに内部告発発言に基づいて番組制作を行なう場合、何よりもまずその告発内容をていねいに聴き取り、正確に記録することが不可欠である。
- ところが、本件の場合、Yディレクターの質問部分も含め、A通報者に対する撮影取材は、実質的には14分31秒しか行なわれていない。しかも、その質問はところどころで要領を得ず、何を質問しているのか意味不明のこともある。
- 取 材陣はA通報者と、およそ1時間半にわたって面談した。Yディレクターはその間の発言内容を取材ノートに記載しているが、そもそも内部告発に基づく放送 は、のちに告発された側とのあいだで事実をめぐって紛糾しがちであることを考えれば、撮影取材は可能なかぎり長時間行ない、その適切な記録保持には万全を 期すべきであって、14分半という時間はあまりに短すぎる。
- なお、A通報者には当日、同伴者がおり、A通報者がそちらに気を取られることが多かったという事情があったが、そうであればなおいっそう質問項目やインタビューの仕方を工夫すべきであった。
- 情 報番組は「わかりやすさ」や「面白さ」を前面に打ち出す番組様式として定着しているが、そのために事実の背景や現象の複雑さを切り捨て、単純化に走る傾向 がある。その番組制作手法が、「都合のよい発言」「使えるコメント」だけ撮影取材できればよい、という安易な取材態度につながっていないか、あるいは取材 やインタビューの修練をおろそかにする原因になっていないか、番組制作関係者は点検してみる必要がある。
- (2)取材メモの紛失
- 本件番組は、いったん放送が保留されたあと、主には、A通報者の告発の主要部分を裏づけるB通報者が現われ、一定のクロスチェックが可能になったと判断されたことによって、放送に踏み切る判断が下されることになったものである。
- しかしながら、B通報者は、A通報者からYディレクターの携帯電話番号を教えてもらって連絡してきたのであり、純粋な第三者とは言えないことに留意すべきであった。B通報者がA通報者が勤務していた当時の平塚工場の内情にくわしく、その発言内容は信用できる、とYディレクターや番組制作幹部らは判断したが、B通報者が明らかにA通報者の関係者であることを考慮に入れれば、B通報者の信用性の吟味にはいっそうの慎重さが必要であった。
- とはいえ、B通報者が、Yディレクターが要請した面談や撮影取材を断わったこと、放送後1回しか電話に応対せず、その後連絡が取れなくなったこと等は、内部告発証言の周辺取材にともなう困難さの現われであったとも考えられるので、告発内容の重大性を考慮した番組制作関係者が、B通報者の発言をA通報者の発言の裏づけとなると判断し、放送に踏み切ったことには大きな間違いはない。
- しかし、Yディレクターは本件番組放送後、B通報者との電話のやりとりをメモした紙片を紛失した。また、B通報者と話したあと、再度電話した不二家広報とやりとりした際の担当者名等を記したメモも紛失している。B通報者の存在や不二家広報の取材を本当にしたのかどうかさえ疑われかねないこの不注意は責められるべきである。
- 『朝 ズバッ!』は、曜日ごとに編成されたスタッフ班で制作されており、各スタッフに定まったデスクがなく、また放送に使用した資料等は放送後ただちに処分する など、ほとんど日替わりで変化する仕事環境で制作されている。こうした番組制作環境が、告発された相手の名誉や人権に関わることの少なくない内部告発とい う微妙な情報を扱う場合にふさわしいかどうかは、大いに疑問である。このような制作環境を作り、許容してきたTBS経営陣にも問題がある。
- (3)広報窓口依存の取材
- 内 部告発を基に番組を制作・放送する場合、通報者の発言だけでなく、それを裏づける周辺取材が欠かせない。YディレクターはXプロデューサーら番組制作幹部 の指示を受け、不二家広報に何度か電話しているが、賞味期限切れ商品や返品の「再利用」「再包装」等がほんとうに行なわれていたかどうか、行なわれていた としたらどのようにしてだったかを確認するために、各地の工場やフランチャイズ店や卸問屋、あるいは他のチョコレートメーカーに行き、返品の方法やルー ト、廃棄や処理の仕方、賞味期限切れチョコレートを回収して再生する場合のコスト、再生可能な工程の存否等々を確認する取材調査をするべきであった。
- と くにA通報者の発言に基づき、溶かしたチョコレートが鍋状の容器に入っているところに、牛乳など乳製品を入れる工程が存在することを前提に番組を構成しよ うとしていたのであるから、そのような工程が果たして存在するのか否かをたしかめておくことは基本中の基本であり、そのための事実確認の方法は、他のメー カーに問い合わせるなど、上記したようにさまざまにあったはずである。
- 今 日、一般的には、企業や官庁など組織に関する取材は、広報を窓口にして行なわれている。しかし、それのみに頼ると、通り一遍の、あるいは組織にとって都合 のよい回答しか得られない。とくに内部告発のような場合、この方法では限界があり、より多角的・多方面に工夫を凝らした取材調査が必要になる。
- スポーツ・芸能から政治・経済まで、幅広い話題を大量に扱う情報番組は、広報窓口を通じた取材に依存しがちであるが、深刻な争いの起こりうる事実を放送する場合、このような取材だけに頼っているのでは、真実に肉薄することはできない。
- な お、これもまた本件番組放送後であるが、番組スタッフらは平塚工場周辺の住宅地を調査し、同工場の従業員や勤務経験者を探し出している。しかし、この作業 も複数名をリストアップした段階で中断しており、それ以上の踏み込んだ取材調査をするかどうかに躊躇いが見られる。これは、広報窓口に依存しない、文字通りの地を這うような取材を十分には経験していない習性のせいではないか、と指摘せざるを得ない。
2.内部告発VTR編集上の問題点
- (1)時期特定の曖昧さ
- 本 件番組は不二家問題が多くの社会的関心を集めていた時期に放送されたが、A通報者が告発した内容がいつの時期のことであったかが明示されなかったため、 10年ほど前の事実としての告発であるにもかかわらず、視聴者がごく最近の出来事として誤解しかねない表現になっていた。
- 番 組制作関係者らは「A通報者の身元を特定されないための措置」だったとヒアリングで説明していたが、他の曜日班が制作した1月18日(木)放送の『朝ズ バッ!』では、不二家に関する同様の内部告発について、「12年前に勤務していた元埼玉工場従業員」と紹介しており、上記の説明は説得的とは言えない。
- この点は、放送倫理上きわめて重大な問題があると考えられるが、前述のとおり、同番組はこの件について、番組②において訂正・お詫びを行なっている。
- (2)カントリーマアムとチョコレートの混同
- 放送されたA通報者の発言中に「賞味期限切れチョコレートをパッケージし直し、再利用していた」ことを示す発言として、「パッケージをし直すために裸にしてほしいと言われて……」と語っているシーンがあるが、取材テープ記録の前後関係から判断すれば、これはチョコレートではなく、クッキーの「カントリーマアム」についての発言であった。
- 放 送に使われなかった取材テープの発言内容を検討すると、チョコレートについての発言中に、「賞味期限だから捨てていいんだろうと思って」いたら、「外身の 皮だけをはがして」「トレーに」並べ、「それをコンテナで運んで、またパッケージされる工場にもどされるっていうことを聞いて」といった発言があり、チョ コレートについてもクッキー同様に「パッケージし直し」「再利用していた」という発言が存在する。Yディレクターのヒアリング時の説明によれば、Y ディレクターはA通報者を取材した際も、また取材テープを放送用に編集した際も、「カントリーマアム」がクッキーではなく、チョコレートを主体とした菓子 であると誤解しており、A通報者の発言は「すべてチョコレートに関する発言であると思い込んでいた」と言い、比較的要領よく語っている「カントリーマア ム」についての発言を使い、放送用に編集したのだという。
- しかし、両者は言葉上は同趣旨であったとはいえ、それぞれ指し示している対象がちがう。誤解や過失であったとしても、放 送倫理の観点からは問題があったと言わなければならない。ここは内部告発の核心部分であるだけに、番組制作幹部らはYディレクターと編集技術者に一任する のではなく、みずから立ち会うなどして慎重な編集作業を行ない、発言内容を正確に反映・要約する努力を払うべきであった。
3.スタジオ演出上の問題点
- (1)不正確なイラスト
- 本件番組の後段では、司会者みのもんたが3枚のフリップを示し、A通報者の発言のポイントをまとめているが、いずれもYディレクターとチーフディレクターが前夜のうちに図柄を相談して決めたものであった。
- Y ディレクターはその際、A通報者に電話し、賞味期限切れチョコレートを溶かし、再利用する工程について質問した。このときのA通報者は家庭内の都合で十分 に受け答えする時間的余裕がなく、「ミルク」「粉」などと一言、二言言ったあとで、Yディレクターの「牛乳みたいなものですか」という問いに、「そんな感 じです」と曖昧に答えただけで、電話を切らざるを得なかった。なお、取材テープには「牛乳」「ミルク」等の言葉は記録されていない。
- やむなくYディレクターらは、液状になった賞味期限切れチョコレートを入れた鍋状の器に、紙パック入り「牛乳」を混ぜ合わせている図柄を思いつき、イラスト レーターに発注した。司会者はこうして作成されたフリップを使い、「その(賞味期限切れの)チョコに牛乳などを加えて混ぜる」と断定的に説明した。
- の ちにTBSは不二家広報から、「チョコレート製造には牛乳を加える工程はない」との指摘と抗議を受け、番組②において、「牛乳と断定した点は正確性を欠い ていた」と訂正することになったが、これは「チョコレート再利用」という内部告発の核心を構成する情報であり、本来は取材時に質問し、正確に記録しておく べき事柄である。上述したように、放送に当たっては、そもそも鍋状の容器に入れた液状のチョコレートに副原材料を加える、という工程が実際に存在したのか どうかを確認する取材調査を行ない、確証を得た上で行なうべきであった。
- (2)伝聞と断定の不十分な区分け
- 本 件番組では、A通報者が伝聞として語っていることが明らかな部分や、前後関係から伝聞とわかる部分を、あたかも直接体験したり目撃した事実であるかのよう に断定して取り扱っている箇所があった。番組中の「出荷されたチョコレートが工場にもどる」旨の説明は、その一例である。
- こ の点は、賞味期限切れのチョコレートが回収され、再利用されているという内部告発全体の基本的前提となる事実であり、A通報者がみずからその事実を目撃し ているのか、それとも誰かがそう言っていたと主張しているにすぎないのかは、視聴者がその告発の信用性を判断する上で決定的な重要性を持っている。従っ て、伝聞情報であることを明らかにしないまま放送したことは、「視聴者に著しい誤解を与え」る結果を生み、放送倫理上の問題となる。
- こ の件について、TBSはのちに番組②において、「『出荷されたチョコレートが工場にもどる』は証言者の伝聞」であり、事実であるという確証を得たものでは なかった、と訂正したが、これはA通報者の勤務場所や周囲の状況をきちんと聴き取り、把握していれば、容易に防ぎ得た間違いである。
- な お、番組では使われていないが、A通報者の発言には先にも引用したように、「それをコンテナで運んで、またパッケージされる工場にもどされるっていうこと を聞いて」などと、「伝聞」であることを明確に述べている箇所がある。この点を無視して、A通報者が直接体験した事実の告発であるかのように番組を構成 し、放送したことは、そもそも「伝聞したことに関する発言」と「直接目撃したことに関する発言」の証拠価値の違いについての初歩的な理解が、番組制作関係者のなかになかったのではないかと疑わせる事態であり、猛省を促さないわけにはいかない。
- (3)根拠の薄い断定・断罪コメント
- 『みのもんたの朝ズバッ!』は題名どおり、司会者みのもんたがさまざまな社会的事象について遠慮なく直言し、断言する面白さを打ち出した人気番組であるが、それだけに番組制作関係者と出演者には、十分な取材調査に基づいた正確な判断と、的確な発言が求められる。
とりわけ内部告発に基づく番組は、多くの場合、告発の対象とされた人や組織にとっては意表を突かれる内容であり、そこで指摘された事実についての意見や確認 を求められても、即座に答えられない事柄も少なくない。その意味では、一般的にこの種のテーマを扱う場合の基本主調は「問題提起」や「問いかけ」にあるべ きであって、一方的な「断定」や性急な「断罪」は避けるほうが望ましい。
し かし、本件番組の主調は明らかに断定と断罪に傾き、不二家広報が放送前の段階で「返品を使うことはない」と、告発内容を否定したコメントに十分な考慮を払 わないまま、次にもたらされた「確認が取れていない」というコメントを、いささかおざなりに伝えているだけである。番組の眼目が司会者キャラクターの決め つけ的言動にあるとはいえ、慎重な演出手法が考慮されるべきであった。また、スタジオのコメンテーターの発言も、内部告発により疑惑が生じたという取材内 容のレベルを超えて、その内部告発が事実であると断定した上での断罪的コメントになっている。
な お、不二家広報は、番組①の放送後の一両日中にも、口頭とファックス送信文書によって、賞味期限切れのチョコレートが「平塚工場にもどってくることはな く」「再処理して商品化することはない」、チョコレート製造には「牛乳を加える工程はない」こと等を番組宛てに伝え、抗議している。
しかし、司会者は番組①の放送翌日の1月23日(火)の同番組において、不二家の新社長就任のニュースを伝えたなかで、「古くなったチョコレートを集めて きて、それを溶かして、新しい製品に平気で作り替える会社は、もうはっきり言って、廃業してもらいたい」と言い、また1月31日(水)の同番組でも、不二 家に「異物混入の苦情が年間1693件あった」とのニュースを紹介したなかで、「異物じゃなくて汚物だね、こうなると」などと語っている。これらはいずれ も、番組①の告発内容が確定的事実である、との前提に立った断定的発言である。ここには不二家広報の指摘や抗議を顧慮した様子が、いっさい感じられない。
委員会はこうした断定・断罪的コメントを発言した真意を、みのもんた司会者に照会した。文書で寄せられた回答には、例えば1月23日の「廃業してもらいたい」発 言について、みずからも父親から引き継いだ水道メーターの会社を経営しており、「(経営者は)送り出す製品に対して全責任を負わなければならない」「お客 さんに対して嘘やごまかしは絶対にあってはならない」と常々自戒していると言い、「世の中に商品・製品を送り出す経営者として、ここまできたら廃業するく らいの覚悟で、信念をもって経営にあたってほしいとの激励の思いも込めたつもりです」と説明している。
しかし、委員会では繰り返しこの番組を視聴したが、その口調や表情から「激励の思い」を汲み取れる内容とはなっていなかった、と判断せざるを得ない。
- (4)放送前の打ち合わせの不十分さ
- スタジオ演出上の問題点を検討していくと、番組制作関係者と司会者を含めた出演者とのあいだの情報共有の仕組みがうまく構築されていないことが浮かび上がってくる。わかりやすくいえば、放送本番前に両者のあいだで行なわれる打ち合わせの問題である。
『朝ズバッ!』の打ち合わせは、午前4時30分から番組開始の5時30分の直前まで、約1時間行なわれている。しかし、3時間の番組中に多くのニュースや 話題を盛り込んでいるので、1つの話題に割ける打ち合わせ時間は限られている。司会者の記憶によれば、A通報者の内部告発を取り上げた番組①については、 「5分程度」の打ち合わせ時間だったという。「番組独自の取材だということ」「(A通報者の)証言内容は現在のことではなく、かなり過去のものだけれど も、VTRでは身元の特定を避けるために時期のことは言っていません、と言われたように記憶しています」
一方、Xプロデューサーもヒアリングの際、「明確にレクチャーしたわけではないが、(スタッフの)誰かが10年ぐらい前の話です、という話はした覚えがあ る」と語っており、内部告発の内容の時期が10年ほど前のことであることを知った上で放送に臨んだ点については、両者の記憶に齟齬がない。
しかし、A通報者の発言の一部に伝聞が含まれていること、3枚のフリップの図柄自体には裏付けがなく、Yディレクターらが想像して粗描したものをイラスト レーターが描いたにすぎないこと等が、この打ち合わせで話題になった形跡はない。また放送前夜のうちに出演者に通知されるいわゆる「ネタ表」にも、これら 重要な情報は記載されていなかった。この不十分さが、番組①の断定・断罪の主調を作り出したことは否定できない。
『朝ズバッ!』には台本がなく、司会者を含めた出演者が何を、どう発言するかは番組の流れと各人の裁量に任されている。それだけに番組制作スタッフが出演者に対して、扱うテーマについての過不足のない情報を事前に伝えておくことが大切になる。
さらに、先に見た翌23日(火)の「廃業してもらいたい」発言の場合も、放送本番前の打ち合わせが不十分だったことが見て取れる。番組制作関係者はこの段 階で、不二家広報が番組①について抗議していることを承知していたはずだが、司会者の発言にそのことへの配慮がまったく感じられないのは、両者のあいだの 情報共有の仕組みに問題があったからである。
『朝ズバッ!』が曜日ごとに異なる班によって制作されているにせよ、それはTBSや制作現場の都合であるにすぎない。少なくとも制作局制作プロデューサー と番組プロデューサーは責任体制上、不二家広報からの指摘・抗議を把握し、それなりの対応を考慮すべきであったし、各曜日プロデューサーも類似テーマを扱 う際には相互に連携・配慮し、司会者やコメンテーターと適切なスタジオ演出を打ち合わせておくべきであった。
こうした番組制作関係者間、また制作関係者と出演者とのあいだの情報共有の仕組みの不備が、断定・断罪の番組主調を作り出し、のちに番組②において、訂正とお詫びの放送をする原因にもなった。
Ⅴ 4月18日(水)放送の番組②の問題点
本 件番組②は、1月22日放送の番組①で行なった不適切な表現等3点について、訂正とお詫びをする趣旨で制作されたものであるが、約6分間におよんだ番組全 体が、従来の『朝ズバッ!』が行なってきた不二家に対する厳しい批判と打って変わって、不二家の広告と見紛うような不自然な構成と内容であった。
1.訂正・お詫びの「主語」の曖昧さ
後段の訂正・お詫びのパートは、先に見たように局アナウンサーが進行し、3点の訂正箇所を事前収録のVTRで放送し、最後に「1月の一連の不二家報道で、行き過ぎた表現やコメントがあったことを併せてお詫びいたします」と締めくくっている。
『朝ズバッ!』は司会者みのもんたの名前を番組名に冠し、その独特のキャラクターに依存した番組であり、番組①の基調もその雰囲気を前面に打ち出してい た。視聴者にじかに語りかけていたのも、むろん司会者であった。このような番組の場合、訂正やお詫びをする主体、あるいはその主語は誰ということになるの か。
3点の訂正内容は、A通報者の証言の編集方法とその表現や演出に関わるものであり、そのかぎりでは番組全体の責任において、あるいはTBSとして訂正とお 詫びをすべき事柄であったと言えないこともないが、その3点においても、たとえばフリップを示して「チョコレートと牛乳を混ぜ合わせた」旨を強調したのは 司会者である。視聴者はその断定的な口調や表情や仕草に込められた「怒り」を感じ取り、それを共有することを通じて、不二家という企業に対する見方や印象 を形成したはずである。
しかし、番組②における司会者の発言には、訂正やお詫びに類する言葉がいっさいない。番組①における発言についてはもとより、のちの番組で不二家に対し、 「廃業してもらいたい」「汚物だね」などと強い口調で語った点についても、撤回や訂正や謝罪を行なっていない。そのかわりにあるのは、「スタジオのお菓子 は全部不二家にしますから」という台詞に代表されるような、あえて言えば不二家への「擦り寄り」「恭順」である。
果たしてこれは、訂正・お詫びの方法としてふさわしいのかどうか。より重要なことは、この「豹変」とも受け取れる番組と司会者の姿勢が、次に述べるように訂正・お詫びの範囲を曖昧にしたことである。
2.訂正・お詫びの「範囲」の曖昧さ
番組②が示した「擦り寄り」「恭順」の姿勢は、およそ6分間の番組全体に通底し、番組①がA通報者の体験的事実として伝えた証言すべてを否定し、撤回するような印象を与えている。
むろん後段の3点の訂正事項を注意深く見れば、またその後につづくVTRが「TBSは、法律家が証言者に面談するなどして調査した結果、やらせや捏造に類 する疑いはないとの報告を受けている」旨を伝えていることを聞けば、A通報者の発言の根幹部分、すなわち「不二家平塚工場で賞味期限切れチョコレートが再 利用されていた」との内部告発の核心については、訂正もお詫びもしていないことが理解できる。
しかし、それもまた、再び登場する局アナウンサーが「1月の一連の不二家報道において、行き過ぎた表現やコメントがあった」とお詫びするに至って、視聴者にとっては、いったい何が間違っていて、どこが正しかったと言いたいのかが不分明になる。
委員会が番組制作関係者にヒアリングした結果によれば、訂正とお詫びは、番組全体の基調からすれば細部ではあるが、明白な誤りの部分である3点に関してのみ、とのことである。TBSも同番組関係者も「内部告発内容の根幹については撤回も訂正もしていない」と明言しているが、番組②からそのような明確なメッセージが伝わってくるとは言い難い。この訂正・お詫びの仕方は、番組としての『朝ズバッ!』の信頼性を、みずから損ねる結果になっている。
3.訂正・お詫びまでの時日がかかりすぎている
番 組①から番組②までのあいだには、およそ3ヵ月の間隔が開いている。この間、不二家が新経営陣のもとで再生に向かうなど、同社にも慌ただしい動きがあり、 一般的な報道もつづいていたにせよ、デイリーで放送している番組が訂正・お詫びの放送をするまでに3ヵ月も要する、というのは時日がかかりすぎである。
しかも、訂正・お詫びをした3点を見ると、いずれも番組①の放送直後に不二家から受けた指摘・抗議から短時日のうちに、確認しようと思えばできた内容である。
委員会がヒアリングを行なった際、番組制作関係者は、消費期限切れチョコレートの再利用が行なわれていたという内部告発の「核心部分に間違いがないかどう かを再確認するのに時間がかかった」という趣旨のことを語っていたが、それはそれとしても、「視聴者に著しい誤解を与え」た事実の間違いについては迅速に 訂正すべきであったし、その方法はいくらでもあったはずである。
こうした訂正がすみやかに行なわれていれば、番組①の直後から始まったTBSおよび同番組と不二家とのあいだの反目や相互不信の相当部分が解消し、その後 の内部告発の核心部分の解明も進んで、視聴者や消費者の利益につながったはずである。訂正・お詫び放送の遅れが、その可能性の芽を摘んでしまったことは否 めない。
Ⅵ 審理の対象とした番組に対する委員会の判断
本 件番組①は「新証言…不二家の“チョコ再利用”疑惑」と題され、10年ほど前に同社平塚工場で働いていたA通報者がみずからの体験を明らかにした内容を番 組の根幹としている。これが事実であったかどうかの真偽は、視聴者にとっても、あるいは一般消費者にとっても重大な関心事であり、その第一報を報じた TBSと『朝ズバッ!』には正確かつ的確な取材調査と情報伝達が求められ、また告発を受けた不二家には説得的で過不足のない情報開示が求められている。
しかし、委員会がこの番組①および②をはじめとする『朝ズバッ!』の一連の不二家関連の放送について審理を開始した時点では、すでに述べたとおり、TBS と『朝ズバッ!』は番組②において、番組①についての3点の訂正とお詫びの放送を行なっており、他方で不二家は同日中に、その3点のお詫びと訂正を「弊社 の要求に応える謝罪である、との経営判断に基づき、これを受け入れることとしました」と社内外に広く公言し、両者ともに、これ以上の積極的な取材調査や情 報開示を行なわない姿勢を示していた。
委員会が番組①と②を、深い関連のある一体のものとして取り上げた理由はここにあるが、両者の主張を注意深く検討すると、A通報者の内部告発の根幹部分に関する真偽はいまもあいかわらず未確定であることがわかる。委員会としては、ともに社会的責任を負う両社のこの曖昧な「決着」の仕方には問題がある、ということを指摘しておきたい。
その上で、委員会は番組①と②に対して、以下のような判断を行なった。
1.1月22日(月)放送の番組①について
放 送は現象的事実やすでに明らかになった出来事の結果を伝えるだけではなく、隠された事実や疑惑などを掘り起こし、伝えることも大きな責務である。しかし、 このとき番組制作関係者が意図的に事実を捏造したり、極度にねじ曲げて放送するようなことがあってはならないことは言うまでもない。
番組①は食の安全等に関わって、多大な社会的関心を集めていた不二家問題に関する、内部告発に基づいた一種のスクープであり、それ自体としては時宜を得た ものであった。委員会が取材テープの視聴、関係者へのヒアリング、関連資料を精査するなどして検証した結果、A通報者による内部告発発言がたしかに存在したことが確認できた。
このような番組を放送する際の妥当性は、放送時点において、その告発内容が真実であると信じるに足る相応の理由や根拠が存在したかどうかが重要な分岐点になる。仮にのちになって、その告発が事実ではなかったことが判明したとしても、種々の状況や取材調査の結果から判断して、放送の時点で、信じるに足るとの一定の合理的根拠が存在していたのであれば、その番組の放送倫理上の責任を問うことはできない。
1月22日(月)放送の番組①には、すでに指摘したようないくつかの不十分さや不適切さがあり、放送倫理上の問題をはらんでいた。「出荷されたチョコレー トが工場にもどる」という伝聞を事実のように伝えたこと、「10年以上前」の出来事を最近のことのように表現したこと、「チョコレートと牛乳を混ぜ合わせ た」などと正確さに欠ける断定をしたこと等々は、そもそもはA通報者に対する不十分な撮影取材と、その後の不十分な取材調査に起因し、司会者らの断定・断 罪的言動によって誇張され、視聴者に不二家に対するいっそうの悪印象を与える効果を発揮したことは否定できない。
しかし、A通報者による内部告発の根幹部分の取り扱いを検討すると、A通報者が不二家平塚工場で働いたことを示す写真や手書きの工場配置図の存在など、一 定の事実の確認が行なわれ、体験した本人でなければ語れない工場や作業の細部のリアリティーについても、撮影取材や面談や電話でのやりとりをかさねるなか で、そこにブレのない、一貫した流れが存在することを確認しており、A通報者の発言には放送するに値する真実性があると判断されたことには、それなりの合 理性が認められる。
また、不二家広報にA通報者の発言内容に関する事実確認を求めるなどの努力も払われていた。A通報者には虚偽の発言をする動機や、そのことによって得られる利益も見当たらないことも、その言動から判断していた。
なお、A通報者の告発内容を主要部分で裏づけるB通報者の実在性は、いまとなってはたしかめようがないが、YディレクターがB通報者と電話で話した直後に不二家広報に連絡し、それ以前とは異なるコメントを引き出していること等、前後の事情からうかがうかぎり、一概に否定することはできない。
これらを併せ、総合的に考えると、『朝ズバッ!』の制作関係者らが1月22日の放送時点において、A通報者の発言と告発内容を信じるに足るとの一定の心証を得、放送するという判断に至ったことには、それなりの根拠が存在したと言うべきである。
しかし、内部告発に基づく放送が、しばしば確定的な物証や証人がない状況下で行なわれることが少なくない以上、番組制作関係者や出演者は一方的な断定・断 罪ではなく、問いかけや問題提起を主調とした構成と演出を心がけて放送するべきであったし、さらに重要なことは、告発内容が、告発された相手に正確に伝わり、反論なり反証を挙げることが存分にできるようなフェアな制作がなされなければならなかった。
本件番組①が指摘した事実の真実性を正確に判断するためには、不二家が、現在のそれではなく、10年前の平塚工場のチョコレート製造装置や製造工程につい て、また当時の賞味期限切れ製品の回収・廃棄の実情について、さらにA通報者と同時期に勤務していた関係者の作業実態について、工場内の写真等も含めた詳 細な情報を開示し、説明することが欠かせない。
しかしながら、同社広報が放送直後に同番組にファックス送付した文書を見ると、「小売店から賞味期限の切れたチョコレートは平塚工場には戻ってこない」等 々と、その反論はすべて「現在形」で記されており、A通報者の告発時期に関する言及はなかった。これは番組①の放送内容が、のちに番組②の訂正・お詫びに あったように、「最近のことと誤解されかねない」表現だったせいと思われる。
とはいえ、これは告発対象とされた不二家による正式な、正面からの反応であった。大きな影響力を持つテレビの番組制作関係者としては、みずから放送した内容に関する当事者からの反応については、ていねいに対応し、それにふさわしい反論・反証の機会を作るべきであった。それはまた、番組①が報じた内容の真偽をたしかめることにもつながったはずである。
しかし、番組①の放送直後から、両者のあいだには反目と相互不信が募り、少なくとも『朝ズバッ!』の側からこの件について積極的に不二家に働きかけ、告発内容の真偽をあらためて明らかにし、番組内で伝えようとする動きは見られなかった。こうした継続的なフォローアップを行なう責任は、今回の疑惑を取り上げ、放送した側にこそあることを、番組関係者は自覚しなければならない。
2.4月18日(水)放送の番組②について
さまざまな社会的事象を限られた時間内で取材調査し、わかりやすく、面白く伝えようとする情報番組にあっては、ときとして取材不足や勘違い等による間違いが起きるものである。正 確さを追求し、最善の努力をすべきであることは言うまでもない。意図的な虚偽や捏造は論外である。番組制作関係者に少なくとも求められるのは、取材内容を 意図的にゆがめることなく視聴者に伝えようと誠実に努めることであるが、そうであっても、認識のミスや事実からのズレを避けることはできないであろう。
問題は、それらが生じたとき、いかに迅速に、正確に、明解に、フェアな態度で訂正し、謝罪するかである。この点について、4月18日の番組②が放送される までに3ヵ月近くがかかったことには問題があるし、その内容にも見過ごすことのできない見苦しさと曖昧さがあり、それは番組としての『朝ズバッ!』の全体 的な信頼性をも損なうものであった、と委員会は指摘しておきたい。
委員会としては、1月22日に放送された番組①には重大な放送倫理上の問題があったことを厳しく指摘せざるを得ないが、しかし、それらは番組②によって訂正されたことにより、視聴者に与えたかもしれない誤解は修正されたと判断する。
今後、『朝ズバッ!』制作関係者のみならず、放送界全体が、視聴者や関係者に誤解や混乱をもたらさない放送と、誤りが生じたときの訂正・お詫び放送のあり方を研究し、真摯に取り組むことを、委員会としては期待しておきたい。
Ⅶ 結論
番 組①は、不二家平塚工場で10年ほど前に働いていた元従業員の内部告発に基づき、賞味期限切れチョコレートが再利用されていた、という疑惑を報じたものだ が、それが現在行なわれている確定的事実であるかのような強い印象を与えるなど、視聴者に誤解を与える証言VTR編集やスタジオ演出が行なわれていた。
その背景に悪意がないとしても、結果的にその一部において、内部告発通報者に対する取材調査の不十 分さ、チョコレート製造工程に関する認識不足、不注意なVTR編集、番組制作関係者と出演者とのあいだの情報共有システムの不備、断定・断罪的コメント等 に起因する不適切な放送をしたことは、放送倫理上、見逃すことができない落ち度であった。
しかし、委員会の調査の結果、内部告発の存在自体に捏造はなく、また番組制作関係者が放送時点においては、通報者が勤務していた当時、上記のようなことが行なわれていたと信じるに足る相応の根拠が存在したことが認められる。十分とは言えないが、その不十分さは内部告発に基づく番組制作の困難さであると考えられ、この点についての放送倫理上の責任を問うことはできない。
番組①において視聴者に誤解を与えた部分は、番組②によって訂正とお詫びがなされ、視聴者に与えた誤解の多くは修正された。とはいえ、番組①と番組②のあいだに3カ月近い時日がかかったこと、訂正とお詫びの主語や範囲が曖昧であったことなど、今後に課題を残している。
これらの不十分さや不備や曖昧さは、怠慢、不勉強、不誠実の誹りを免れないが、いずれも個人的資質等に帰すべき事柄ではなく、番組制作体制そのものが内包する深刻な欠陥としてとらえるべきである。幾百万、幾千万人という視聴者が見ている番組を制作・放送する体制がこのようなものでありつづけるなら、番組も放送局も、そしていずれは放送界全体が信用を失うことになる。
「番組は、もっとちゃんと作るべきだ」という委員会席上の委員の肉声をそのまま記しておきたい。これはむろん、委員会の総意である。
なお、内部告発の根幹部分については、今後のTBSの取材調査と不二家の情報開示によって明らかにされるべきものであることは言うまでもない。委 員会は、とくにTBSと番組関係者が、ここで指摘した「取材調査」「内部告発VTR編集」「スタジオ演出」「訂正・お詫びの放送のあり方」等々に関わる問 題点を真摯に受け止め、放送の果たすべき役割をみずからに問い、視聴者や社会との信頼を着実に築いていくことを期待する。
以上を、委員会の見解とする。
Ⅷ おわりに
民 放連とNHKが定めた「放送倫理基本綱領」は、放送に携わる関係者に対し、「品位ある表現を心がける」よう求め、「事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真 実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」「視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過 程を適正に保つこと」を訴えている。
これらはたんなるお題目や建前ではなく、これまでの放送人が少なくない失敗や間違いを経験したあとで、ようやくたどり着いた倫理綱領であり、民主主義社会における放送の命綱ともいうべき理念である。
放送倫理検証委員会は、放送人がこうした倫理と理念を日々の番組作りのなかで具体的に活かしていくための方策を「審議」によって提言し、場合によっては特定の番組を検証し、「審理」によって示すことを目的としている。
委員会が放送倫理の向上をめざすというとき、それは、強制力によって、放送人が見かけ上だけ行儀よくなることや、問題を起こさない代わりに毒にも薬にもな らない番組ばかりがふえることを意味しない。委員会がめざすのは、放送人一人ひとりが内発的・自律的に放送倫理を自覚し、その向上に向けて努力するよう励 まし、支援することである。
委員会のこうした姿勢の底流にあるのは、放送人は放送で失ったものは、放送によって取り返すべきであり、放送で起きたことは、放送で解決すべきである、と いう職業的原則である。言い換えればこれは、放送人はその倫理において、また仕事において、内発的・自律的・自主的でなければならない、ということであ る。
本件審理の最終段階の7月10日になって、不二家は 委員会に対し、「TBS『朝ズバッ!』で指摘された『賞味期限切れチョコレートの再利用』に関する件」なる、代表取締役社長名の文書を提出した。そこで主 張されていることの趣旨は、「弊社製チョコレートの流通システムからいって、賞味期限切れ製品が工場にもどってくることは絶対なく、従って再利用等もあり えない」という従来からの主張だったが、そこにあらたに2つのことが付け加えられていた。
その第1は、これが現在にかぎったことではなく、「10年以上遡っても基本的には変わりはありません」と記されていたことであり、第2に、「今般の委員会における調査には全面的に協力いたす所存でございます」と述べられていることである。このような新しい事実の提示と協力的な姿勢に、委員会は謝意を表したい。
「はじめに」でも述べたとおり、委員会は放送界の監督官庁でも、裁判所でもない。公 権力が放送界を直接に監理することの問題点はここではさておくとしても、委員会にはそれらとの本質的なちがいがある。委員会の役割は、放送対象となった事 象それ自体の真実性を究明することにあるのではなく、番組関係者が放送に至る経緯のなかで、どれほどその事象の真実性を明らかにする努力を払ったか、また 番組においてそれにふさわしい演出を行なったかどうか、を放送倫理上の観点から検証することにある。言い換えれば、委員会は、事象の真理を司るのではな く、真理に至る過程に注目し、その正当性を検証するのである。
そのことは別段、委員会が非力ということではない。速報性・広域性・影響力の大きさで他のメディアに優越する放送は、民主主義社会の成熟の度合いに深く関 わっているが、民主主義が「結果」ではなく、合意形成の平等性や公明性などの「過程」を重視するように、委員会もまた、当該の番組が放送されるに至った過 程を重視し、その正当性と放送倫理上の問題点を検証する。そのことを通じて、民主主義の一機能としての役割を果たそうとするものである。
TBSおよび『朝ズバッ!』と不二家とのあいだにあった反目と相互不信は、一方の訂正・お詫びの放送と、他方の経営判断による受け入れによって、一応は収束している。だが、視聴者と一般消費者は、賞味期限切れ製品の再利用があったか否かを判断するための材料を、どちらからも提示されないまま、置き去りにされている。
不二家は先の文書によって、「10年以上遡っても」賞味期限切れ製品が工場にもどってくることはないと言い、委員会に対する情報開示の準備がある旨を提示 したが、何よりもそれは一般消費者と視聴者、さらにはTBSおよび『朝ズバッ!』関係者に向けてこそ示されるべき姿勢であろう。
委員会は、TBSと『朝ズバッ!』関係者が、放送で失ったものは、放送によって取り返すべきだ、という放送人の職業的原則を思い起こし、いまだ明らかでない真実の解明に自主的・自律的に取り組み、視聴者と一般消費者に対する責任を果たすよう、強く訴えておきたい。ことの真偽がどちらに転ぶのであれ、その取材調査のプロセスと結果をていねいに真剣に伝えることこそ、放送が社会的信頼を築き、この国の民主主義の成熟に寄与することにつながると信じるからである。
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日本語になっていない。
報告書はもっとちゃんと作るべきだ。


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